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東京地方裁判所 昭和57年(わ)1696号 判決 1982年9月27日

被告人 藤原明宏

昭三五・四・一生 アルバイト

主文

一、被告人を懲役八月に処する。

二、未決勾留日数中一〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は自主憲法制定、反共主義等を標榜するいわゆる右翼団体である政治結社優政会に加入しその活動に従事していた者であるが、昭和五七年五月二七日午後六時三〇分ころ、東京都品川区大井一丁目三番六号先路上を街頭宣伝用自動車に乗車して進行していたところ、折から日本共産党所属衆議院議員榊利夫(当五三年)が同所に駐車した街頭宣伝用自動車上の演説台上で拡声器を使用して同党の政策宣伝等の演説の業務を行つているのを認め、直ちに威力を用いて右演説を妨害しようと決意し、横付けにされた自車上の演説台上で右榊に対し「おい、行けよ。大井から出てけよ。」などと怒号し、更に自ら右榊の演説台に跳び乗り、なおも「大井から出てけよ。やめろ。」などと繰り返し執拗に怒号しながら右榊の身体を押し使用中のマイクロフオンを掴み引つ張るなどして右榊の演説を中断するのやむなきに至らせ、もつて威力を用いて同人の業務を妨害したものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯となる前科)

被告人は昭和五五年八月二〇日横浜地方裁判所で監禁傷害の罪により懲役一年に処せられ昭和五六年六月二〇日右刑の執行を受け終つたものであつて、この事実は検察事務官作成の前科調書及び被告人の当公判廷における供述によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、前記前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、その刑期範囲内で被告人を懲役八月に処し、同法二一条を適用し、未決勾留日数中一〇日を右刑に算入する。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は被害者榊利夫の演説は道路上に駐車中の街頭宣伝車の上の演説台上で行われていたものであるところ、右業務は道路使用に際して原宿警察署長の付した許可条件に違反して駐車中の右街頭宣伝車上で行われたものであつて、威力業務妨害罪において保護さるべき法益に該らない旨主張する。

そこで検討すると、司法警察員作成の昭和五七年五月二七日付け実況見分調書、司法警察員作成の同月三〇日付け捜査報告書及び荒井茂の検察官に対する供述調書によれば、被害者榊利夫がその演説台上で演説していた日本共産党の街頭宣伝車(品川八八す一四七五)による同党の政策宣伝等に対しては昭和五七年五月四日警視庁原宿警察署長より「1、著しく交通が混乱する場所での放送は行わないこと。2、停止して放送する場合は道路交通法で停車を禁止している場所では行わないこと。3、停止して放送する場合は道路交通法で駐車を禁止している場所では一箇所五分以内にすること。4、ビラ等の散布は行わないこと。」なる条件を付して道路の使用を許可していたこと、しかるに右街頭宣伝車が駐車していたのは横断歩道の端から約〇・三メートルに近接した道路上であつて、道路交通法四四条三号により駐停車の禁じられている場所であつて、かつ明らかに五分以上駐車して演説していたものであることが認められ、該車両の駐車は右許可条件に違反するものであつたというべきである。しかしながら、前掲各証拠によれば右榊利夫の日本共産党の政策宣伝、国会報告等の演説そのものは平穏に、社会的に相当な方法をもつて行われていたものであると認められるのであるから、同人の演説が道路交通法上の道路使用許可条件に違反した駐車車両上でなされたとの一事をもつて威力業務妨害罪にいう業務として刑法上の保護に値しないものといえないことは言うまでもない。弁護人の右主張は採用できない。

(量刑の事情)

被告人の本件所為は、街頭における政党の言論、政策宣伝活動を威力をもつて妨害し、これを中止するのやむなきに至らしめたものであつて、現行憲法秩序に違背する悪質な違法行為といわなければならない。ただ、被告人の本件犯行は右翼団体としての組織的犯行の一環としてでなく、被告人が日本共産党の宣伝車両をマル青同の宣伝車両と誤認したことがきつかけとなつて発生した偶発的、単発的な要素の強いものであると認めるのが相当であること、被告人も反省していること、その他本件に顕れた一切の事情を総合斟酌し、主文のとおり量刑した次第である

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

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